白蝶貝のランダムな美しさ「かたちの見えないギターデザイン」

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木目の美しさは、不規則な中にあるパターン。同じ柄がない。繰り返しがない。微妙に違っている。だからながめていて飽きない。メイプルに浮き出るフレイムグレインもそうだ。見る角度によって、形相が変化する。昔の家具は、表面に、きれいな木目の木を薄くプライして化粧版としてはりつけて豪華さを演出ている。60年代のアメリカでは、リンバウッドやローズウッドは人気の柄だった。自然の描くパターンの美しさに勝るものは無い。

OLYMPUS DIGITAL CAMERAルシアーを魅了する美しいハカランダの模様

stone大理石は見飽きない奥深さがある

ノルウエーの放送局“NRK”が、暖炉の火を延々と動画放送したところ、20%もの視聴率を獲得し、今では季節の定番となっている。人々は、炎のような不規則な動きや、木目のようにルールの無い自然が作り出す文様に魅了される。私もそうだ。

木目同様に、不規則なパターンの美しさ、同じ効果のある素材がシェルだ。一般的に装飾インレイ用のシェルとして、アバロンや白蝶貝(マザーオブパール)が有名だが、美しい虹色を誇るアバロン貝と比べて、白蝶貝には、おとなしい純白のウエディングドレスのような印象がある。が、じつはマザーオブパールは、陰影や文様が豊富で、光の織りなすパターンが、見るものの創造力を描き立てる。波打つトラメや、鱗のような模様、炎のような強弱が、その時々で違った絵柄に見える。たとえば、ホテルのロビーで大理石の模様をずっと眺めていると、人の顔や人体の一部、動物の影絵のように、いろんなシルエットに見えて、怖い思いをしたことがないだろうか。それが自然の呼起す創造力だと思う。ニューヨーク派の代表画家「ジャクソン・ポロック」の作品も、いろんな物事にたどり着くイマジネーションを掻き立てる。それは、概ね「見る側の創造力を喚起」するものだから、入道雲をみて、綿菓子や羊の群れを連想するような純真な気持ちにつながる。シェルの魅力とは、そういったクリエイティヴなイマジネーションの世界だ。そんな魅力と効果を感じて、白蝶貝をデザインに取り入れている。

P1019615シェルの不規則な模様

OLYMPUS DIGITAL CAMERA左上:MOPとゴールド 左下:レッドアバロン 右上:ターコイスと黒蝶貝 右下:パーロイド

OLYMPUS DIGITAL CAMERA美しいスパイダーウエヴが織りなすターコイスの魅力

ギターの表面に、白蝶貝をならべるとき、一定の規則をたもっていても、それを正確無比に行う必要はない。すこしおおざっぱに、目分量っぽく切り出した破片を、「規則正しいような感じ」で。アバウトであることが大事だ。人間の感性は、「正確な並びや採寸、単純な反復、コピーをつまらない、退屈なもの」と感じるのかもしれない。

トニーが自身のデザインするギター(ゼマイティス)で実践しているのは、イタリアンタイルのような、規則正しい中にも、一定の不規則さを点在させたバランスのよい文様だ。几帳面でない配列が心地よい。私は、Zemaitisとは、少し異なるアプローチで、クラッシュド・シェルという、「粉々に砕けた鏡」のような面白さをGTZのデザインに取り入れている。双方ともに、見ていて楽しい天然素材の活かし方だと思う。

tile2どことなくシェルトップっぽい石畳

余談だが、デッサンするときには、シェルのピースの形状も考えてみる。もちろん作り手にとっては、その通りには、なかなか作業できないようだが、それでも、ピースの大きさや貝目のパターン、素材選びは、デザインの楽しさである。

そもそもが、シェルをつかったデザインをすることは、いわゆる「かたちのないものをデザインする」ことだ。シェルの見え方が、その時々で異なるからだ。「偶然が生み出す不規則な美しさに関心がある」と言ったのは、吉岡徳仁*であるが、彼は「自然現象と共に生活しているのに、その美しさが生まれる理由を我々は、理解できていない。」とコメントしている。私も同感である。21_21デザインサイト(建築設計は安藤忠雄)で2008年に開催された吉岡徳仁※1ディレクションの「セカンド・ネイチャー」や、森美術館での彼の展示(2010年 Snow)は圧巻だった。自然現象の安らぎを提示していて、インスピレーションがわいてくる。物理学者である近角聡信さんの『日常の物理学事典』に、大根おろしの歯をデザインする過程で、ランダムを大切にする発見が記されている。こうした「規則と不規則の感覚的な大切さ」を、ギターのデザインに於いても、貝や木、金属・彫金を適所に取り入れながら、人造物があたかも自然現象であるかのような美しさで具現化できていれば、この上ない喜びである。

shell%e6%af%94%e8%bc%83シェルのレイアウトも考えながらデザインする※2

※1 吉岡徳仁談話:偶然が生み出す不規則な美しさに関心がありますね。同じものを2度と作り出すことも出来なければ、きちんと理解することさえ難しい。まさに自然そのものです。?私たちは自然現象と共に生活しているにも関わらず、生命やそよ風、色、光など自然の美しさが生まれる理由を理解できていません。?つまり重要なのは、人間は自然を決してコントロール出来ないということなのです。 だから人は自然に夢を抱くのでしょうね。

※2 TUBEのギタリスト 春畑道哉さんにデザインした「アリゾナ」のラフスケッチ。 シェルのレイアウトや、ハート部分の処理を試行錯誤している。

dsc00099完成したGTZ Arizona