ロニー・レーンに花束を PartⅡ (2025/02 更新)

アールヌーヴォーの代表的な画家として、ポップな作風が愛され現在も絶大な人気を誇るチェコの画家「アルフォンス・ミュシャ」。この作家の「線的かつ平面的リズム」に基づいたデコレーションの強調によって統一されたモダンスタイルは、装飾美術と連動した線と面、そしてアニメーション的な色彩によって独特なリズムを生み出しています。

著者は、1978年に伊勢丹美術館で開催された「アール・ヌーボーの華 ミュシャ展」を訪れて以降、熱烈なファンとなり、長年に亘り多くの作品を収集してきました。阪神大震災でほとんどの所蔵品が全壊した家屋の瓦礫に埋もれ、母とともにこの世を離れましたが、私の脳裏にはいまでも「四季 春」「曙と黄昏」「メディア」に描かれた豊満でエロティックな女性像が焼き付いています。

PartⅠでご覧いただいた、一本のシンプルなゼマイティス・4stベース。フィンガーレストがかっこいい非常にレアなモデルです。これは、「多発性硬化症支援(ARMS)コンサート」支援のために、トニーがわざわざロニー・レーンの為に作成したスーペリアモデル(1984年)で、ピックガードに何の彫金もない素朴なデザインがロニーにすごく似合っていると思います。一方で、長年所有する間に、「無骨で重厚かつシンプルなこのベースに、何か新たな魅力・息吹を与えたい」と思い始めたのも、自然なことでした。

皆さんは「ゼマイティス」と聞くと、煌びやかな白蝶貝がトップ一面に敷き詰められたり、豪華な エングレイヴィングが施されたメタルフロントを連想することでしょう。しかし、その生い立ちが家具職人であるトニーの楽器は、ベーシックなモデルでさえ、マチエールを大切に、素材を生かした作風で弾き手を魅了してくれます。

トニーの製作するギターやベースには、おおよそ3段階のグレードがあります。オーダー主の予算によって、「Superior」「Standard(もしくはDeluxe)」「Custom Deluxe」に別れていますが、実機を手に取ってみるとトニーはどのグレードでも、同じ素材と労力そして情熱を注ぎこんでいることがわかります。 

こうして裸にしてしまえば、このベースに、丹精込めて労力と才能を惜しまずに投入されているのが分かります。制作家にとってはすべての作品が同等に「わが子」なのですね。

トニーはアルミのプレートをピックガードというよりもボディの一部と考えていたようです。キャビティーはこのようにボディを貫通しており、アルミプレートをボディに装着したあとで、ポットやジャック、スイッチなどを裏から搭載していたのです。少々わかりにくいかもしれないので、ネックエンドから説明してみましょう。

指板とボディの間に2mm弱の隙間があるのが、わかりますね。ここにアルミプレートが滑り込むのですが、実はピックアップやトーン・ボリュームポットをプレートに装着したままだと、角度がついてしまい、このすき間にスライドインできないのです。

ピックアップは一度アルミプレートの外側に出してから、改めてボディにネジどめします。
ギブソンのEBベースから流用されたブリッジが無骨
通常は「Superior MODEL」にはみられない12Fのクロスインレイ
ロッドカバーはトニーの手作業で貴重。
1984年製
なぜかダイヤマークはダニー・オヴライエンの作品
通常はCustom Deluxeにしか付属しない「Tonyのハンドメイドケース」

PartⅢでは、仕上がったプレートを装着した雄姿にくわえ、トニー自作のハードケースやステッカーを見ながら、想いを馳せていきます。

(文責:三ツ井忠)