髑髏とドラゴンのモチーフ (2025/03 更新)

LP Shapeの髑髏インレイ・モデルは、宇崎竜童さんのファイティング80でステージに登場した1979年製のカスタム・オーダー品です。

Vintage Maniacs (VM): あらためて、70年代を振り返ると、ギターメーカーも個人製作家も、悠々と気ままに好きなギターを作っている感じがするんですよね。

Player誌 1980年7/15号に掲出されたサン楽器の広告

三ツ井: いっぽうで、今ほどいろんなパーツが個別に買えたり入手できる時代ではないから、ピックアップがディマジオだったり、ブリッジとかテールピースがドイツや日本製だったり。
VM: このZemaitisも、デュアルサウンドが二基搭載されています。
三ツ井: 当時、一世を風靡したからね、ディマジオは。音もすごくよかった。
VM: 僕のZemaitisの印象は、彫金されたアルミプレートが貼られたメタル・トップや、白蝶貝が一面に貼ってあるシェル・トップです。今回のような、インレイのモデルは、キース(リチャーズ)の愛器以外では、あまり見たことがないような。

ヘッドプレートは、細かで確かな腕前 Danny O’brien

三ツ井: まあ、ドラゴンやスコーピオンをモチーフにした、シェル・インレイの逸品もあるから、これから順番に紹介していくよ。
VM: だらだらと、自慢話や蘊蓄を披露しないでくださいね。
三ツ井: う・・・・・。 これぐらいなら良いかな? 
VM: さすがに、英国製ギター。後ろのジャガーが映えますね。
三ツ井: トニーも愛車はジャガーだったから、似合うと言えば似合うね。 ブリティッシュな雰囲気だ。
VM: ドラゴンといえば、インレイ以外にメタルプレート搭載のモデルもありましたね。

三ツ井: 一番有名というか皆さんの印象に残っているのは、ロン・ウッド愛用のラウンド・ディスクと呼ばれる、このタイプかもしれないね。ただ、製作本数は圧倒的にすくなくて、ほんの一握りだよ。
VM: 宇崎(竜童)さんの、髑髏モデルに戻りますが、ヘッドプレートがTop Gradeの槍型なのに、ブリッジとテールピースはStandard仕様の日本製ですね。
三ツ井: そこはね、グレードだけの差じゃなくて、実は削り出しのブリッジよりもABR-1タイプの方が良いっていうオーダー主もいたみたい。
VM: 実用性考えると、削り出しは一長一短ありますからね。
三ツ井: 順番に見ていこうか。

ペグはW.Germany製SchallerのM6。この当時は最高級のペグです
ヘッド裏は、置いたときに当たらないよう、スラント加工されています
ハンドメイド感に溢れた丁寧な処理

ダークブラウンの塗装が、濃いマホガニーの地色を惹きたてている
ボリュート部分は、背骨がせり出すような骨格を連想させる3D仕上げで、
優雅な曲線は手作業の真骨頂 
塗装が剥げた部分のマホガニーの色にも注目

VM: ゼマイティスの特徴と言えば、この「バインディングを突き抜けるフレット」経年でバインディングが割れてくるので、オーナーは保管の湿度に注意してくださいバインディングに乗ったラッカーの細かなクラックも歴戦の勇士を感じさせますね。

VM: この髑髏インレイ、ステージでみると無茶苦茶カッコいいのに、近くでクローズアップすると、お茶目です。赤い目玉が、笑っちゃいます。
三ツ井: 遠くから見る印象と違うけど、上手く「ステージ映えする」ように、デフォルメしてるのが、分かるね。サーベルのハンドルは、ヒスイっぽくグリーンのインレイが施されていて、デザイン性に富んでる。細かいところは、細かい。
VM: 僕が感心したのは、「あまりディテールはどうでもよくて」っていう姿勢でしょうか。ほら、このボディのライン。普通、インレイとかバインディングしますよね。 

三ツ井: 塗ってるだけかな? めんどくさかったんだろ? それか、納期がギリギリだったとか。
VM: うーん、屈指のコレクターが放つ前代未聞の無責任コメントだ。今年のワースト発言トップ3入り、間違いないなあ。 一応掘ってから黒く塗ってるみたいですよ。
三ツ井: マジックで描いてるだけかと思った。(笑) 

VM: バックプレートは丁寧にアルミプレートを削り出しています。
三ツ井: Tonyの場合、オーダー主からの「小遣い溜まったから、彫金入れたい」という、後々のオーダーにも対応していたから、そのためにも、アルミにしておくって感じかな。
VM: 配線は、相変わらずゴチャゴチャしています。 
三ツ井: そうだね、表からみると、トグルスイッチとミニスイッチのレイアウトは、非常に分かり易い。でも、キャビティー内はカオスだ。

VM: この「秋葉原のラジオ会館で売ってるような、メタルノヴ」、いかがですか?
三ツ井: 高校生の頃は、なんとなく「拾ってきたパーツ?」みたいな、失礼な(笑)印象をもっていたが。
VM: 今、こうして見直してみると・・・・・。 
三ツ井: デザイン的に、完璧だね。
VM: ・・・・・、本当にそう思っています?
三ツ井: ふふふふふふ。

手作りのインレイは、よく見ると、ひとつづつ、形が違っています

Zemaitis談義は尽きません。トニーの作品には、一本一本にギタリストと製作家がやりとりした、布石のようなものが色濃く反映され、特にこの時代(特に70年代から80年代初期)の作品は、オリジナリティを楽しんでいる遊び心が伝わってきます。
カッタウエイの裏側や、ネックジョイントにも、製作家の息吹が感じられ、トニーが終始「マチエールを大切にした」アーティストであったことが分かります。

このギターにインスパイアされた、
GTZのBoneシリーズ「Under the Skin」 
designed by Taddy Mitsui

(文責:三ツ井忠)